NAMBEIを買いに

拙HPに数々のコンテンツを提供していただいている名古屋在住のNさんが2012年末、遠路はるばる福岡を訪れてNAMBEIピストラーダをオーダーされました。2013年2月に完成し納車されましたが、この間の経緯や南米商会でのやりとりの様子などを文章にして下さいました。ベテランらしくなかなか深く鋭い洞察が随所にみられます。ディープな愛好家だけでなく、まだ冥府魔道に染まっていない方にも参考になることが多いと思います。ぜひお読み下さい。

はじめに
死病にも取り憑かれず、大きな事故にも遭わず、無事還暦を迎えることが出来ました。「自分が還暦を迎えることは当たり前のこと、当然のこと」と思っていました。でも久しぶりに小学校、中学校の同窓会に出たところ、一割ほどの同窓生が既に鬼籍に入っており、「自分が鬼籍に入っていても何も不思議はない」「自分もそういう歳になったんだ」ということを痛感して帰ってきました。
確かに「ここんとこ、気力、体力がガックリと落ちてきたなぁ〜」と感じています。あと何年、自転車やスキーをやれるか…。
しかし、女房も豚児2人もオヤジが還暦になったことすら認識しておらず、当然何かお祝いをくれる素振りも見せません。どうやら自分で還暦を祝わなければならないようです。そんなこんなで、還暦記念に自転車をオーダーすることにしました。以下はその顛末をつづったもの。オーダーに際して何かの参考になれば、望外の幸せです。お付き合いのほどお願いいたします。

オーダーに際しての希望
多分最後の自転車になるであろう1台は、数年前にフレーム製作を再開された南米商会さんにお願いする以外には考えられません。南米さんにはこれまで3台のマージでお世話になっています。オーダーに際し、自分がどんな自転車が欲しいのか、自分なりにまとめてみました。
車種はピストラーダ。最近はほとんどフリー付きには乗っていない。自分の脚で間に合わない坂に出くわしたら、「ギヤがもう1枚あれば…」という言い訳はせず、キッパリと押すことにしています。それに若い衆にブチ抜かれても「固定だもんねぇ〜〜」と思えるのは、精神的にとても楽です。(←これを『年寄りの冷や水』と言わず、なんと言う…)
今のところ、2台のピストラーダ(50×19のマージと51×19のセブン)で100〜120kmは走れます(アベは22km/h前後とゆっくりですが…)。同じくらいのアベでもう少し長く(150km位)走りたい。
乗っているところは上り3分の1、平地3分の1、下り3分の1くらいのコース。それなりのアップダウンがあります。街中で乗ることは一切ありません。
『名古屋走り』という不名誉な言葉があるくらい、名古屋の運転マナーは悪い。交通事故死ワースト1だったと思います。その名古屋の街中で固定ギヤに乗ることは自殺行為と僕は思っています。でも、死にたい奴が一杯居るんだよね…。
武骨な中にもエレガントな雰囲気が欲しい。登りではかかりが良く、平地では伸びがあり、下りでは安定している自転車。そして乗って楽しいだけではなく、磨いても楽しく、眺めていても嬉しい自転車が良い。
細かい工作はお任せするとして、ラグドフレームで、ダブルボトル台座希望。ワガママな性格が災いして、自転車仲間を持っていない。トラブルがあっても自分だけで何とかしなくてはならず、どうしても工具など携行するものが多い。ダブルボトルはそのための物です。もともとスッキリしたフォルムを持つピストラーダには、ボトルケージなどつけない方が格好いい。でも、一生懸命乗るつもりなので、これは譲れません。
最初はメッキ出しした『撫で肩のクラウン』に『クロウスティ』が良いとか、『肩の張ったクラウン』に『笹葉のステイ』が良いだとか、いろいろ考えていたのですが、そのうちシロートがどうこう言うより、プロに任せた方が良いと思うようになりました。
2013/3/20

浦島太郎かもしれないけど…
オーダーに際し、本当に久しぶりに自転車雑誌を何冊か読んでみました。驚いたことに、最近は鉄ブーム、ヴィンテージ・バイク(?)ブームらしい。凝った工作のフレームに、希少価値の高いオールドパーツをテンコ盛りにした自転車ばかり。多分ちょっと経済的に余裕の出てきた中年オヤジをターゲットにしているのでしょうか。そんなのを見ると、還暦ジジイは「なんか違うんじゃないかなぁ…」と思ってしまいます。
自転車はやっぱり「乗ってなんぼ、走ってなんぼ」の物。以前の52×42、13〜23などというギヤが、昨日今日自転車を始めた中年オヤジに踏み倒せるものではありません。街中でヨタヨタ走り、仲間内でノーガキを垂れるのが関の山。もちろんそれもひとつの楽しみだし、人様の趣味にどうこういう気はありません。酸いも甘いも噛み分けたオトナ(と表現して良いのでしょうか?)なら、それも「有り」だと思います。
ただ、最初からそっち方面にリードしてしまうのは、自転車の持っている素晴らしさに触れる機会を奪ってしまうような気がします。炎天下で脱水やハンガーノックで動けなくなったり、ブラック・アイスに乗って落車したり、道を間違えて10分下ったら登り返すのにその何倍もの時間がかかって泣きたくなったりしたことは、今となっては良い思い出です。
いろいろ希望はあるけど、結局は「スラッとした自転車」が良い。そういう意味からは、『NAMBEIのスタンダードフレームのピストラーダ版』というのが、一番良いのかもしれない。それが僕の到達した結論でした。
2013/3/23