Fixedの悦楽」「扉を開けたら」「イベントに出よう」と、多くの寄稿を寄せて下さる名古屋在のNさんは、大人の固定ギア愛好家ですが、ある老舗ショップにある旧いピストラーダに惚れ込み嫁にもらおうと画策します。が、甲羅を経た大旦那はそう簡単には首を縦に振りません。
そうこうするうちに、話は飛んで富士の樹海かアリババの洞窟か、ミノタウロスの迷宮か、最近の方にはなかなか理解できないであろうオタクの深い深い世界に沈んでいきますが・・・。はてさて、Nさんのもくろみは無事成就するのでありましょうか。
乞ご期待。
m(_ _)m

物語の始まり・あるいは主人公の独白
この物語は僕が一台の旧いピストラーダを嫁にほしいと思ったところから始まります。56歳にもなって何でこう、このピストラーダに惹かれるのか、自分でもよく分かりません。今持っているマージとセブンのピストラーダは、僕の脚には勿体ないほどのバイクで、十二分に満足しています。
現保有勢力のロードレーサー、シクロクロス車、マウンテンバイクにもなかなか乗れないのに、このピストラーダを嫁に取っても「床の間バイク」になるのは分かっています。でも欲しい、どうしても欲しい。そんな気持ちを綴ったものです。「エェ歳したオッサンが、アホやなぁ・・・」と笑ってやってください。

アリババの洞窟
名古屋のカトーサイクルは1946(昭和21年創業の老舗です。常連さんや従業員たちから「オジサン」、「オバサン」と呼ばれている大旦那と大旦那の奥さん、若旦那と若奥さん、古くからいる番頭さんと腕の良いメカニック、それ以外にも何人かの若い衆(若い衆はちょこちょこ替わりますから、なかなか顔と名前が覚えられません)で切り盛りしていますから、自転車店としては大規模店といえるでしょう。
僕とカトーサイクルとのお付き合いは、今の女房と結婚する前からですから、もはや四半世紀以上にもなります。僕が始めて伺ったころのカトーサイクルは、店舗全体がホント「アリババの洞窟」。
その辺りに潜り込んで、いろいろお宝パーツを漁ってきたものです。そして「カトーサイクルから帰ってくると手が真っ黒」だったことを今でも覚えています。その後何度か改装や増築を繰り返し、3年前の大改装で現在の店舗になっています。現在の店舗は商品もよく整理され、買い物もしやすくはなりましたし、「カトーサイクルから帰ってくると手が真っ黒」ということもなくなりました。
でも僕のようなフルダヌキにとっては、昔のような「アリババの洞窟」的なオモシロさは薄められたのは、ちょっと残念なような寂しいような・・・。

でも「アリババの洞窟」的なオモシロさが残っているところがある。それは2階の一角にある「オジサンのコーナー」と名づけられた大旦那の隠れ家です。改装以前にも一階の片隅に大旦那のコーナーがありました。
筍(たけのこ)変速機のついたトゥー・クロメのアレックス・サンジェ、ユーレーのついたルネ・エルス、カーボンフレームがまだ「新素材フレーム」と言われていた時代のバッタリンなどの完成車を始め、カンパ、サンプレックス、ゼウス、ユーレー、シマノ、サンツアーなどの変速機、ストロングライトやTAなどのクランク、マファック、ユニバーサルなどのブレーキ、ニジー、スーチャン、フィアンメなどのリム、サンシン、マキシカーなどのハブ、ブルックス、イデアル、ユニカなどのサドル、レジナのフリーやセディスのチェーンなどなど、まぁマニア(オタクともいう)が見たらヨダレの出るようなものばかりが、極々無造作においてありました。
一時オタク街道を突っ走っていた僕も、カンパを中心に随分ムリを言って分けてもらったものです。その中には完成車の形に出来たものもあります。でもパーツのままお蔵入りしたものも随分ある。しかしインデックスの手元シフトに慣れた身では、今更ダウンチューブのダブルレバー(それもフリクション)を操作する気にもなれず、さりとて売るに売れず、棄てるにはもったいなさ過ぎる・・・。
オタク街道を突っ走った末路は、こんなものかもしれません。でももう少し年齢が行って、肉体的にも精神的にもそして何より自転車的にも枯れたら、フレームのまま眠っているボブ・ジャクソンやポリアーギにカンパを組み込んで、ゆっくり走る日を夢想しています。でも金食い虫の豚児が2人もいますから、いつのことになるのやら・・・。
2009/9/22